2003(平成15)年11月14日判例の引用判決-2

2003(平成15)年11月14日の引用判例-2

裁判年月日 平成22年 9月24日 裁判所名 佐賀地裁 裁判区分 判決
事件番号 平19(ワ)794号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 一部認容、一部棄却 上訴等 控訴

主文

 一 被告Y1建設は、原告に対し、主文第二項の限度で被告Y2及び主文第三項の限度で被告Y3と連帯して、四四二七万一四二二円及びこれに対する平成一三年五月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
 二 被告Y2は、原告に対し、被告Y1建設及び主文第三項の限度で被告Y3と連帯して、四四二七万一四二二円及びこれに対する平成一七年九月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
 三 被告Y3は、原告に対し、被告Y1建設及び主文第二項の限度で被告Y2と連帯して、二二一三万五七一一円及びこれに対する平成一三年五月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
 四 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
 五 訴訟費用は、原告に生じた費用の五〇分の一と被告Y1建設に生じた費用の五〇分の一、被告Y2に生じた費用の五〇分の一及び被告Y3に生じた費用の二分の一を原告の負担とし、原告に生じた費用の二五分の九と被告Y1建設に生じたその余の費用を被告Y1建設の負担とし、原告に生じた費用の二五分の九と被告Y2に生じたその余の費用を被告Y2の負担とし、原告に生じた費用の五〇分の一三と被告Y3に生じたその余の費用を被告Y3の負担とする。
 六 この判決の第一ないし三項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一 請求
 一 主位的請求
 被告らは、原告に対し、各自四五三九万八五六四円及びこれに対する平成一三年五月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
 二 予備的請求(被告Y1建設及び被告Y3に対し)
  (1) 被告Y1建設は、原告に対し、四五三九万八五六四円及びこれに対する平成一七年九月二四日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
  (2) 被告Y3は、原告に対し、四五三九万八五六四円及びこれに対する平成一七年九月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
 本件は、自宅を新築した夫の相続人である原告が、同建物の基礎に瑕疵があるとして、同建物の建築を請け負った被告Y1建設に対し、主位的には、不法行為による損害賠償請求権に基づき、損害金四五三九万八五六四円及びこれに対する不法行為後の日である平成一三年五月五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金、予備的には、瑕疵担保責任による損害賠償請求権に基づき、損害金四五三九万八五六四円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成一七年九月二四日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求め、被告Y1建設の代表者である被告Y2(以下、被告Y1建設と被告Y2を併せて「被告Y1建設ら」という。)に対し、取締役の第三者に対する責任(平成一七年法律第八七号による改正前の商法(以下「旧商法」という。)二六六条の三第一項)に基づき、損害金四五三九万八五六四円及びこれに対する同建物引渡し後である平成一三年五月五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、同建物の建築確認申請をした一級建築士である被告Y3に対し、主位的には、不法行為による損害賠償請求権に基づき、損害金四五三九万八五六四円及びこれに対する不法行為後の日である平成一三年五月五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金、予備的には、債務不履行による損害賠償請求権に基づき、損害金四五三九万八五六四円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成一七年九月二六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
 一 前提事実(証拠を掲記した事実以外は争いがない事実である。)
  (1) 当事者
   ア 原告は、A(以下「A」という。)の妻であったものであり、別紙一物件目録一記載の土地(以下「本件土地」という。)及び同目録二記載の建物(以下「本件建物」という。)を所有するものである(なお、本件建物建築当時の所有者は、Aであった。)。
   イ 被告Y1建設は、土木建築の設計並びに施工等を業とする有限会社であり、本件建物の工事施工者である。
   ウ 被告Y2は、被告Y1建設の代表取締役であり、二級建築士の資格を有するものである。
   エ 被告Y3は、一級建築士であり、本件建物の確認申請書に設計者及び工事監理者として記載されているものである(なお、本件建物に関する契約内容及びその評価については争いがある。)。
  (2) 本件建物の建築確認申請
 平成一二年九月一三日、Aは、佐賀県知事に対し、本件建物の建築確認を申請し、同月二五日、確認を受けた。なお、同建築確認申請書には、建築主の代理者及び工事監理者として被告Y3の名が記載され、設計者として被告Y3の記名押印がある。
  (3) 本件建物の請負契約
   ア Aは、平成一二年九月一九日、被告Y1建設との間で、次の約定で建築請負契約を締結した(以下「本件請負契約」という。)。
 (ア) 工事場所 〈省略〉
 (イ) 工事名 A邸住宅新築工事
 (ウ) 工期 平成一二年九月二〇日~平成一三年三月二〇日
 (エ) 工事請負代金 四九六〇万円
 (オ) 支払方法
 契約成立時 二〇〇〇万円
 中間払 二〇〇〇万円
 完成引渡し時 九六〇万円
   イ 被告Y1建設は、平成一三年五月四日、上記工事を完成させ、同日、Aに本件建物を引き渡した。
  (4) 相続
 Aは、平成一三年一二月二一日、死亡した。原告は、Aを被相続人とする遺産分割協議により、本件土地及び本件建物(これらに関する瑕疵担保責任に基づく瑕疵修補請求権及び損害賠償請求権並びに不法行為に基づく損害賠償請求権を含む。)を取得した。
 二 争点及びこれに関する当事者の主張
 本件の主要な争点は、本件建物の瑕疵の有無及びこれに関する各被告の責任の有無であり、これに関する当事者の主張は、それぞれ次のとおりである。
 (原告)
  (1) 本件建物の瑕疵
   ア 建物の基礎が備えるべき性能
 建築基準法は、建築物に対して社会で許容される最低限度の構造性能を持つことを要求し、自重(建物それ自体の重さ)、積載荷重(居住し占有する人間や設置される什器・道具などの動産類の荷重)、積雪荷重、風圧、土圧及び水圧並びに地震その他の震動及び衝撃に対して安全な構造を確保しなければならないと規定し(建築基準法二〇条)、また、建築基準法施行令三八条一項は、建築物の基礎は、建築物に作用する荷重及び外力を安全に地盤に伝え、かつ、地盤の沈下又は変形に対して構造耐力上安全なものとしなければならないと規定している。
 このように、建築物の基礎は、地盤の沈下に耐えられる性能が求められている。
   イ 本件土地の状況等及び対策の必要性
 (ア) 本件土地の状況
 本件土地は、平成七年にa市により宅地造成されたものであるが、その宅地造成以前は、田畑に四mの盛土がされ、鶏舎が建てられていた。そして、この宅地造成において、この鶏舎が建っていた地盤に更に八・一mの盛土がされた。
 さらに、本件土地は、二区画にまたがっているところ、両区画には〇・六m程度の宅地レベル差があったことから、本件建物の建築の際、被告Y1建設により、それぞれ一・〇m及び〇・四mの盛土がされた。
 (イ) 本件土地付近の地形の特色
 本件土地付近のもともとの地形は、北西側に開いた谷の奥部であり、かつ、周囲より一段低くなっている場所(かつて池であったと思われる場所)のすぐ近くである。したがって、地下の水位や水脈の流れによっては、地中で地下水がたまって地層の含水率が上昇して地耐力が低下したり、周辺の第三紀層に属する砂岩、泥岩、頁岩等が水浸・乾燥を繰り返し受けることでその形状・強度を保つことが困難となり、やがては剥離又は泥状化に至るいわゆるスレーキング現象を起こしたり、地下水の流れによって土砂の流出が起き、地盤が低下するなどの危険性があった。
 (ウ) 本件土地の地盤の支持力等
 本件土地については、本件建物の建築に当たり、スウェーデン式サウンディング試験(以下「SS試験」という。)が行われているが、その結果によれば、本件土地の地盤は、沈下の危険性、また、支持力不足のいずれの点から見ても、堅固な地層に杭を打って基礎を支える方法など地盤対策を講じることが求められるものであった。
 (エ) 基礎の形状
 本件建物の基礎は、南北方向の幅が一一m程度であるのに対し、東西方向の幅が三〇m程度もあり、東西方向に長大である。このような形状の基礎の場合、基礎の荷重が地中に影響する程度(地中応力の分布)が大きくなり、地盤が沈下して全体が弓なりにたわむ危険性があった。
   ウ 被告Y1建設の基礎工事
 被告Y1建設は、本件建物の基礎工事として、基礎の底部に基礎杭(若しくは補助杭)を打ち、その上に高さ約七〇cmの地中梁を構築したが、杭については独自の判断で、東側で三m、西側で二~二・五mの長さの現場打ちコンクリート杭を施工した。しかし、東側で地中梁の下から三m、西側で地中梁の下から二~二・五mの長さの杭では、当然杭の先端が固い支持地盤に達せず、その結果、支持力不足を来した。したがって、被告Y1建設が作った基礎は、本件土地の地盤状態に応じた性能を有していなかった。
  (2) 被害状況(不同沈下の発生)
   ア 本件建物では、平成一三年五月に引渡しを受けた直後から窓やドア等の建具に狂いが生じ始め、床の傾き、柱・建具の傾き、建具・ドア・窓等の開閉不能、外壁・内壁の亀裂、土間部分のひび割れ等が多数発生した。
   イ 平成一五年八月に、本件建物についてレベル測定が行われたが、その結果、建物の床レベルで、西側のクローゼット西隅を基準として、東西方向に長い建物の中央部ホール部分に八九mmの沈下が認められた。
  (3) 被告らの責任原因
   ア 被告Y1建設
 (ア) 不法行為責任
 本件土地の状況・地形の特質、SS試験の結果、本件建物の基礎の形状等からすれば、基礎の工法について十分に注意すべき義務があったにもかかわらず、被告Y1建設は、地盤の情報やSS試験の結果に係る情報を十分に収集することなく、また、一級建築士で工事監理者である被告Y3と打ち合わせをすることもなく、技術的根拠のない自らの勘により、本件建物の基礎を選択し、杭の先端が支持地盤に達していない状態に設置したものであるから、被告Y1建設には過失があり、不法行為責任を負う。
 (イ) 瑕疵担保責任
 被告Y1建設は、本件建物の建築を請け負ったところ、本件建物には、その基礎が支持地盤に達していないという瑕疵があるから、瑕疵担保責任を負う。
   イ 被告Y2
 被告Y2は、本件請負契約締結当時、被告Y1建設の代表取締役であり、本件建物の建築工事を施工するに当たり、善管注意義務及び忠実義務を負っていたところ、被告Y2は、本件建物の基礎工事が支持力を発揮しない安全性を欠くものであることを当然に知り得る立場にありながら、これを監督する義務を怠り、本件建物に欠陥を発生させたものであり、被告Y1建設の代表取締役として職務執行について重大な過失があったといえるから、取締役の第三者に対する責任(旧商法二六六条の三第一項)を負う(なお、原告は、被告Y2の責任に関し、不法行為責任としているが、その主張内容からすれば、上記のとおりと解される。)。
   ウ 被告Y3
 (ア) 不法行為責任
 本件土地の状況・地形の特質、SS試験の結果、本件建物の基礎の形状などからすれば、基礎の工法について十分に注意すべき義務があったにもかかわらず、被告Y3は、杭の先端が支持地盤に達しない状態での杭工事を放置したものであるから、被告Y3には過失があり、不法行為責任を負う。
 なお、Aとの間で工事監理契約を締結していないとの被告Y3の主張を前提としたとしても、被告Y3は、本件建物の建築確認申請書に工事監理者として自らの名が記載されていること(前記前提事実(2))を知りながら、法で定められている工事監理者変更の届出をする等の適切な措置をとらないままこれを放置したのであり、このことは、最高裁判所平成一五年一一月一四日判決の判示内容に照らせば、違法行為と判断されるべきものであり、不法行為責任を負う。
 (イ) 債務不履行責任
 Aと被告Y3との間には、遅くとも平成一二年八月二七日、本件建物の工事監理契約が成立した。
 工事監理者は、工事監理契約に基づき、本件建物が建築基準関係規定に適合しているかどうか、建築確認済証の設計図どおり建築されているかどうかについて工事監理する債務を負っている。
 本件土地の状況・地形の特質、SS試験の結果、本件建物の基礎の形状などからすれば、基礎の工法について十分に注意すべき義務があり、工事監理者としては、これらの対策をとるべき債務があったにもかかわらず、これを怠り、杭の先端が支持地盤に達しない杭工事を放置したのであるから、被告Y3は、上記工事監理契約に基づく債務不履行責任を負う。
  (4) 損害
   ア 本件建物補修工事費用 三七八六万四二五一円
 本件建物の基礎の補修工事は、基礎がこれ以上沈下しないように地盤対策をした上で、基礎の水平、ひいては建物の水平を回復するものでなければならない。そのような改修工事方法としては、本件建物の基礎の下に杭を打ち、安定した地盤まで到達させて住宅を支えて、杭と基礎とを結合させる方法が適当である。このような改修工事費用は、コンクリートブロック塀補修工事を併せて、三七八六万四二五一円となる。
   イ 調査費用 一二八万二二八一円
 (ア) 本件建物の不同沈下の原因及び状況を正確に把握し、それに対する的確な補修方法を検討し、立案するためには、専門家である一級建築士による調査と補修方法の検討が不可欠である。原告は、一級建築士にそのような調査を依頼し、その費用として七八万七五二一円(消費税込み)を支払った。
 (イ) また、原告は、意見書の作成を上記一級建築士に依頼し、その作成費用として二一万一二六〇円を支払った。
 (ウ) 原告は、株式会社bコンサルタントに対し、地盤調査を依頼し、その費用として二八万三五〇〇円を支払った。
   ウ 代替住居確保のための費用 一三三万六一五〇円
 本件建物の補修期間中は、本件建物を住居として使用することはできず、その期間は約六か月である。したがって、次の費用を要することになる。
 (ア) 引越費用(二回分) 八四万六一五〇円
 (イ) 補修期間中の家賃 四二万円
 七万円×六か月=四二万円
 (ウ) 不動産仲介料 七万円
 家賃一か月分として、七万円となる。
   エ 慰謝料 一〇〇万円
 A及び原告は、多額の費用をかけて自宅を建築したが、建物が傾いている違和感で船に酔ったような不快感を感じるなど、極めて不安な生活を強いられている。さらに、改修工事の際には、六か月も移住をして慣れない生活を余儀なくされるなど、多大な精神的な苦痛を余儀なくされる。これら原告の被る精神的苦痛は、とても物的損害の填補では補えるものではなく、このような原告の苦痛を慰謝するのには一〇〇万円をもってするのが相当である。
   オ 弁護士費用 四一四万八二六八円
 原告は、本件訴訟の遂行を弁護士に依頼したが、弁護士費用として、上記損害額の一割に当たる四一四万八二六八円を被告らに負担させるのが相当である。
   カ 合計 四五六三万〇九五〇円
 なお、原告は、請求の原因に関する主張を変更した際、損害に関する当初の主張に、上記イ(イ)の調査費用を追加し、これに伴い弁護士費用を増額したが、本件口頭弁論終結に至るまで請求の拡張は行っていない。
 (被告Y1建設ら)
  (1) 被告Y1建設が不法行為責任、瑕疵担保責任を負う、被告Y2が取締役の第三者に対する責任を負うとの原告の主張は、いずれも争う。
  (2)ア(ア) 被告Y1建設は、SS試験を実施した上、本件建物建築時において効力を有していた建設省告示第一三四七号に従い、ベタ基礎を採用し、更に、補強として改良杭(現場打ちコンクリート杭)まで打設しているのであるから、被告Y1建設に注意義務違反はなく、被告Y2に重大な過失はない。
 すなわち、本件建物は木造平屋建ての住宅であるところ、SS試験の結果によれば、本件土地の地耐力は概ね二〇kN/m2以上であり、被告Y1建設が施工したベタ基礎及び改良杭(現場打ちコンクリート杭)という基礎で充分であって、本件建物には、社会通念上、その物として通常有すべき性能を欠くという不完全性はなく、瑕疵はない。
 (イ) 本件建物の基礎工事につき、被告Y2が説明し、Aは納得していた。なお、被告Y2が、この基礎工事で十分であると言ったことはある。
   イ(ア) 本件建物の建築当時、本件土地が軟弱な地盤であったとはいえない。
 (イ) 本件建物の沈下は、建物の自重による不同沈下ではなく、本件土地を含む分譲地全体の地盤沈下によるものであり、その責任は、本件土地を宅地造成したa市にあるというべきである。
   ウ 原告の主張(2)アについて、被告Y1建設らは、本件建物の引渡し後約二年間は、同主張にあるような苦情を聞いていない。
  (3)ア 損害に関する原告の主張については、いずれも争う。
   イ 仮に、被告Y1建設らに責任があるとしても、原告は、平成一三年五月に本件建物の引渡しを受けて以来、七年以上も平穏に暮らしており、上下水道の苦情などは一切主張していないことから、予備的に過失相殺を主張する。
 (被告Y3)
  (1) 被告Y3が不法行為責任、債務不履行責任を負うとの原告の主張は、いずれも争う。
  (2) 原告は、Aと被告Y3との間には、本件建物の工事監理契約が成立したと主張するが、否認する。
 本件において、被告Y3が関与したのは、本件建物の建築確認申請手続のみであり、そのため、被告Y3が作成した図面は、建築確認申請書に添付が要求される本件建物の平面図及び道路や敷地との位置関係を示す配置図のみである。被告Y3は、Aら設計業務の一部の委託を受けたにとどまり、ましてや、工事監理を委託されてなどいない。
 したがって、債務不履行責任については、その前提となる工事監理契約が成立しておらず、これを負うものではない。また、不法行為責任については、基礎工事の内容について注意すべき義務が発生するものではなく、これを負うものではない。
 なお、原告は、最高裁判所平成一五年一一月一四日判決を指摘するが、同判決の事案は、建築士によるいわゆる名義貸しの事例であって、本件とは、法的な場面を異にする。
  (3) 損害に関する原告の主張については、いずれも争う。
第三 当裁判所の判断
 一 認定事実
 前記前提事実並びに《証拠省略》によれば、以下の事実が認められる。
  (1) 本件土地の状況
   ア 本件土地は、平成七年一月一八日から同年八月三一日の間に、a市により宅地造成され、一般住宅用として販売された宅地区画の一部(一二二区画のうちの二区画)である。
   イ 本件土地を含む周辺地域は、もともと小高い山や谷の入り込んだ地形であり、この宅地造成は、切土及び盛土をして行われたが、本件土地付近では、約八mの盛土が行われている。
  (2) 本件建物の建築に関する経緯
   ア 平成一〇年、当時のA宅の敷地の一部が、a市による道路拡張により収用されることになり、A宅の建て替えが必要となったことから、Aは、被告Y3に対し、敷地の残地に建て替える場合についての相談を持ちかけ、被告Y3は、何種類かの平面図を作成したが、残地においてAが希望する住宅に建て替えることは難しく、他の土地を探すことになり、最終的に、a市が宅地造成した本件土地に新築するということになった。
   イ 平成一二年三月ころ、Aから、被告Y3に対し、本件土地での新築について検討して欲しい旨の連絡があり、被告Y3は、a市より、宅地造成に関する資料等を入手するなどした上で、同年八月までに、平面図を作成した。
   ウ 他方、被告Y2は、平成一一年一〇月ころ、BからAの紹介を受け、その後、Aとともに建て替え用の代替地を見に行ったり、独自に平面図を作成するなどしていた。
   エ 平成一二年八月二七日ころ、原告は、本件の関係で、A方を訪れていた被告Y3に対し、「無理なら監理はいいですよ」などと述べた。
   オ(ア) 同日ころ、被告Y2は、Aより、被告Y3が作成したという図面(配置平面図と側面図。以下、この図面を「本件受領図面」という。)を受領したが、本件受領図面には、後記本件添付図面のような基礎についての記載はなかった。
 (イ) 被告Y1建設は、本件受領図面を利用して、有限会社c技研(以下「c技研」という。)に対し、本件土地の地盤調査を依頼した。
 (ウ) 同年九月四日、c技研は、本件土地について、SS試験等の地盤調査を実施した後、被告Y1建設に対し、SS試験の結果等を記載するとともに、調査結果として、「不同沈下の可能性」「やや有」、「軟弱地盤対策」「一部必要」、「対策工」「ベタ基礎」「シングル配筋」という同社の判定を記載した地盤調査報告書を提出した。
 この際、被告Y2は、c技研に対し、調査結果の内容等につき説明を求めたりすることはなかった。
 なお、SS試験の結果は、別紙二―一~六記載のとおりである。
 (エ) その後、被告Y2は、a市都市開発課を訪れ、本件土地の状態について尋ねたところ、宅地造成して五年以上経っているから大丈夫という回答であった。なお、被告Y2は、宅地造成に関する資料等は入手していない。
   カ 同月八日ころ、被告Y3は、実施設計のためには地盤調査が必要であると考え、Aに架電し、地盤調査の実施について了承を得ようとしたところ、地盤調査は被告Y1建設を通じて既に実施済みであるとの話であった。その際、被告Y3は、建築確認申請の手続だけ行えばよいのかと確認したところ、Aは、それでよい旨回答した。
   キ(ア) 被告Y3は、同月一一日ころ、上記地盤調査の資料の一部の提供を受け、建築確認の申請書に添付する図面等の必要書類を作成した。
 (イ) 同月一三日、Aは、佐賀県知事(d土木事務所)に対し、工事監理者として被告Y3の名が記載されている本件建物の建築確認を申請した。なお、被告Y3は、同建築確認申請において、Aの代理人として申請手続を行っており、同月二五日、建築主事の確認を受け、そのころ、建築確認済証をA方に持参した。
 (ウ) 上記申請書に添付された被告Y3作成の平面図(以下、この申請書に添付されていた図面を「本件添付図面」という。)中には、「基礎」として、「鉄筋コンクリート 鋼管杭四m打基礎 地中梁連結」、「土間コンクリート Fc=一八〇 s=一五厚一三五」、「鉄筋:SD30 D10@二五〇(タテ、ヨコ共)」と記載されていた。
   ク 同月一九日、Aと被告Y1建設は、前記前提事実(3)ア記載のとおり、本件請負契約を締結した。
   ケ(ア) 被告Y1建設は、本件受領図面を基に、被告Y2が適宜板図を作成したりしながら、本件建物を建築した。
 なお、被告Y2や被告Y1建設の工事関係者は、本件添付図面は見ておらず、その内容は知らなかった。
 (イ) 本件建物の基礎について、被告Y2は、上記地盤調査報告書記載の判定の内容やSS試験の結果から、自らの経験などを基に、ベタ基礎を採用の上、補強として改良杭(現場打ちコンクリート杭)を施工することとし、被告Y1建設は、ベタ基礎と改良杭(現場打ちコンクリート杭)という基礎(以下、この基礎を「本件基礎」という。)を施工した(なお、杭の長さは、東側で約三m、西側で約二~二・五mというものであった。)。
 本件基礎を採用するに当たり、被告Y2は、Aに対し、その説明を行ったが、その際、被告Y2は、この基礎工事で十分である旨述べ、Aは、その説明を受け、了解していた。
 (ウ) 被告Y3は、実施設計図等の設計図書は作成しておらず、また、二、三回、本件建物の建築現場に立ち寄ったことがあるものの、工事監理業務を行ったことはない。
 (エ) 他方、被告Y2も、建築確認上、被告Y3が工事監理者となっていることは認識していたが、基礎打設を含め、本件建物の建築に際して、被告Y3と打ち合わせ等を行ったことはなく、これをしようとしたこともなく、A及び原告も、被告Y2同様、被告Y3と打ち合わせ等を行ったことはなかった。
   コ 平成一三年四月、本件建物の完了検査が行われ、被告Y3はこれに立ち会った。
   サ 同月一八日ころ、被告Y3は、Aに対し、設計料四〇万円、監理料五万円、確認申請料一〇万円、完了検査申請立会二万円などの合計額七〇万〇三〇〇円から一〇万〇三〇〇円を値引きした六〇万円を請求し、Aは、同月二七日及び同年六月七日に、それぞれ三〇万円を支払った。
 なお、上記各支払の領収証には、それぞれ「住宅新築工事確認設計料一部として」「住宅新築工事確認設計料の残金」と記載されている。
   シ 平成一三年五月四日、被告Y1建設は、本件建物の建築工事を完成させ、本件建物をAに引き渡した。
  (3) その後の経緯
   ア 平成一五年八月ころ、本件建物について、a市等により、レベル測定が行われ、その結果は、別紙三記載のとおりであり、建物の床レベルで、西側のクローゼット西隅を基準として、中央ホール付近において、一〇〇〇分の五を超える最大八九mmの沈下が認められた。
   イ 平成一六年一〇月、本件土地の南側隣接地につき、ボーリング調査が行われ、その結果は、GL-四m付近までは含水が多く、比較的締まっており、N値は概ね一〇以上を示すが、GL-四m~-六m付近は、含水が多く粘土化が著しく軟質(N値=一~三)となっているなどというものであった。
 二 本件建物の瑕疵の有無
  (1) 本件建物の沈下の原因
 《証拠省略》によれば、本件土地は、宅地造成において盛土が行われているところ、その盛土部分で「スレーキング現象」(原告の主張(1)イ(イ)参照)が起こり、そのため、地盤沈下が発生し、その地盤沈下に伴い、本件建物が沈下したと認めることができる。
  (2) 本件基礎が瑕疵に当たるか否かについて
   ア 瑕疵とは、完成された仕事が契約で定められた内容どおりでなく使用価値若しくは交換価値を減少させる欠点があるか、又は、当事者があらかじめ定めた性質を欠くなど、不完全な点を有することをいうと解される。
   イ 本件では、前記認定のとおり、設計図書等は作成されていないが、建築基準法施行令三八条一項は、「建築物の基礎は、建築物に作用する荷重及び外力を安全に地盤に伝え、かつ、地盤の沈下又は変形に対して構造耐力上安全なものとしなければならない。」と規定し、また、本件において、Aは、建築主として、本件土地上に本件建物を建築することを発注していたことからすると、本件建物の基礎は、本件土地の地盤の沈下又は変形に耐えられる安全性を備えていることが予定されていたとみるのが相当である。
 しかるに、本件建物は、本件建物の引渡しの当初から不具合があったと認めるに足りる的確な証拠はないとしても、遅くとも引渡しの約二年後には、前記認定のとおり、沈下が確認されたというのであるから、本件基礎は、本件土地の地盤の沈下又は変形に耐えられる安全性を欠いていたといわざるを得ず、本件基礎には瑕疵があるというべきである。
   ウ(ア) この点、被告Y1建設らは、本件建物の基礎に不完全な点はなかったが、本件土地の宅地造成に問題があり、本件建物が沈下したものであって、責任は宅地造成をしたa市にある旨主張する。
 しかしながら、およそどのような基礎を採用していたとしても、地盤沈下によって建物が沈下したというのであれば、瑕疵に当たらないとすることもできようが、本件において、杭の先端が支持地盤に達する杭基礎が採用されていたとすれば、本件建物の沈下は生じなかったと考えられるのであるから、上記のような事情は認められず、被告Y1建設らの上記主張は採用できない。
 (イ) また、被告Y1建設らは、瑕疵がなかったことの証拠として、本件建物の建築当時の地盤の許容支持力を算定したところ、その当時の基準を満たしていると判断できる、また、SS試験の結果等から、当時の地盤のN値の推定を行ったところ、基礎地盤として十分なN値を有するものと考えられるなどとする意見書(以下、これらを併せて「C意見書」という。)を提出する。
 そこで検討するに、C意見書は、本件基礎が当時の基準を満たしているかを判断するに当たり、許容支持力を求める式として「Qa=三〇+〇・六NsW」を用いた上で、許容支持力が三〇kN/m2以上あり、当時の基準を満たしているとするなど、その判断の過程に疑問なしとしない(上記の式を用いる限り、三〇以上の数値しか算出されない。)が、この点を措くとしても、同意見書は、SS試験の結果に基づき許容支持力やN値を算出し、その数値から本件基礎の妥当性を判断するものであるが、その算定の前提となるSS試験の特徴からすると、盛土が行われていることなど本件土地の地盤の特性なども併せ考慮すべきであると解され、実際、本件に関与した一級建築士である被告Y3は、盛土がされていることなども考慮し、杭の先端が支持地盤に達する杭基礎によるのが妥当であると判断していたことなどに照らすと、同意見書を直ちに採用することはできない(なお、同意見書は、地盤の問題は、宅地造成者の責任と捉えているが、およそ建物を建築する場合、地盤の特性に応じた基礎を構築すべきことは当然であると解され、C意見書の見解は採用できない。)。
 三 被告Y1建設の責任
  (1) 不法行為責任の成否について検討する。
  (2) 一般に、建物の建築業者は、安全性を確保した建物を建築する義務を負っており、建物の基礎を地盤の沈下又は変形に対して構造耐力上安全なものとする義務を負っているというべきところ、その前提として、建物を建築する土地の地盤について必要な調査を行い、地盤に対応した基礎を施工すべき義務を負っていると解するのが相当である。
 これを本件についてみると、前記認定事実によれば、本件土地は、切土及び盛土を行って施工した宅地造成地のうち、約八mの盛土をした部分であること、SS試験の結果は、別紙二―一~六記載のとおりであり、調査会社であるc技研の判定結果は、「不同沈下の可能性」は「やや有」、「軟弱地盤対策」が「一部必要」、「対策工」は「ベタ基礎」「シングル配筋」というものであったことの各事実が認められる。そして、被告Y2自身、少なくとも、本件土地が宅地造成地であることを認識していたというのであるから、被告Y1建設としては、本件土地が宅地造成地であり、また、調査会社から軟弱地盤対策が一部必要などの報告を受けた以上、宅地造成に関するさらなる調査をすべき義務があったというべきところ、被告Y2が現実に行った調査は、前記認定のとおり、被告Y2が、a市都市開発課を訪れ、本件土地の状況を尋ねたことのみであり、同課から資料等を入手するなどして検討したこともない。そうすると、被告Y2は、宅地造成に関する調査義務を尽くしたとはいい難いばかりでなく、上記のような報告があり、しかも、被告Y2自らSS試験のデータを詳細に検討することができなかったにもかかわらず、被告Y2は、前記認定のとおり、c技研に対し、説明を求めたりすることもなく、また、工事監理者と認識していた被告Y3に相談することや本件添付書面を確認することすらしていないことになる。
 そして、本件添付書面の平面図の基礎に関する記載は、前記認定事実(2)キ(ウ)記載のとおりであり、被告Y3の供述によれば、杭の先端が支持地盤に達する杭基礎として設計していたというのであるから、被告Y2が打設すべき基礎について被告Y3に相談していさえすれば、本件基礎が採用されることはなかったものと考えられる。
 以上によれば、被告Y1建設の代表者である被告Y2が、上記調査義務を尽くしたとはいい難く、被告Y1建設について注意義務違反(過失)があるといわざるを得ないから、被告Y1建設は、法人としての不法行為責任を負うことを免れない。
  (3) なお、予見可能性の点については、何らかの原因による不同沈下の可能性についての予見可能性があれば足り、具体的な沈下の原因(スレーキング現象)についての予見可能性までは必要ないと解すべきであり、本件においては、前記認定事実(2)オ(ウ)記載の地盤調査報告書の判定とは異なる基礎が採用されていることからすれば、被告Y2は、この点に関する明確な供述はしていないもの、不同沈下の可能性について認識していたものと認めるのが相当であるから、被告Y1建設において、予見可能性を欠いていたということはできない。
  (4)ア この点、被告Y1建設らは、被告Y1建設としては、注意義務を尽くしており、また、本件建物が沈下したのは、宅地造成に問題があり、その責任は宅地造成をしたa市にある旨主張する。
 しかしながら、上記の注意義務は、建物の建築業者として当然負うべきものであって、被告Y1建設が、これを尽くしたものとは認め難いことは前記のとおりである。また、上記調査義務を尽くしていれば、本件基礎が採用されることはなく、本件建物の沈下は避けられたと解されることからすると、仮に、宅地造成者に責任の一端があるとしても、宅地造成者の責任と被告Y1建設の責任とが競合することになるにすぎず、このことから被告Y1建設の責任が否定されるとは解されない。
 したがって、被告Y1建設らの主張は採用できない。
   イ また、C意見書も、被告Y1建設らの主張と同様の見解を示しているが、前記アで検討したとおり、採用できない。
 四 被告Y2の責任
 被告Y2は、被告Y1建設の代表取締役であり(前記前提事実(1)ウ)、前記認定のとおり、本件基礎の採用など本件建物の建築に具体的に関与していたものであるところ、前記三で被告Y1建設の注意義務違反と述べた点は、いずれも被告Y2自らその業務に当たっていたものであり、前記三(2)のとおり、いずれも特段困難なことを要求しているわけではないから、任務懈怠につき重大な過失があったものというべきである。
 したがって、被告Y2は、取締役の第三者に対する責任(旧商法二六六条の三第一項)を負うことを免れない。
 五 被告Y3の責任
  (1)ア 原告は、Aと被告Y3の間に工事監理契約が成立した旨主張する。
   イ しかしながら、前記認定のとおり、被告Y3は、実際に工事監理業務を行っていないところ、基礎工事の前提たるべき地盤調査を行っておらず、実施設計図等の設計図書も作成していない(したがって、実施設計図等に基づく工事監理をそもそも想定できない。)。また、建築主であるAや施工業者である被告Y1建設の方でも、被告Y3を工事監理者として扱う具体的な行動を全くとっておらず、被告Y3に工事監理を行うよう求めてすらいないことからすれば、Aと被告Y3との間に工事監理契約が成立していたとは認め難い。
   ウ 原告は、被告Y3から「監督に回ったときはその分を請求していいですか」という発言があった旨供述し、これをもって工事監理契約成立の根拠とするようであるが、上記発言から直ちに工事監理契約の成立を認めることはできず、このことから上記認定が左右されることはない。
 また、被告Y3が作成した請求書中に、「監理料」の項目があることについて、被告Y3は、本件建物以外にも図面を作成するなどしたことがあり、その分の請求として、「監理料」名目で挙げたものである旨供述するところ、前記認定のとおり、これに沿う事実関係もあることからすると、かかる供述を直ちに排斥できるものでもなく、この点も上記認定を左右するものではない。
   エ 以上によれば、Aと被告Y3との間に工事監理契約が成立していたとは認められず、前記認定事実からすれば、Aと被告Y3との間で、建築確認申請の手続について、被告Y3がこれを行う旨の合意が成立し、さらに、被告Y3が完了検査に立会う限度での合意が成立していたにとどまるものと認めるのが相当である。
  (2)ア しかしながら、建築確認申請書の工事監理者欄に被告Y3の名が記載されていたことは、前記前提事実(2)記載のとおりである。
   イ ところで、建築士法及び建築基準法は、設計及び工事監理に関し、これを専門家である建築士に独占させる旨の規定を設けているところ、その趣旨は、建築物の新築等をする場合におけるその設計及び工事監理に係る業務を、その規模、構造等に応じて、これを適切に行い得る専門的技術を有し、かつ、法令等の定める建築物の基準に適合した設計をし、その設計図書のとおりに工事が実施されるように工事監理を行うべき旨の法的責務が課せられている一級建築士、二級建築士又は木造建築士に独占的に行わせることにより、建築される建築物を建築基準関係規定に適合させ、その基準を守らせることにより、建築物を建築し、又は購入しようとする者に対し、建築基準関係規定に適合し、安全性等が確保された建築物を提供することを主要な目的の一つとしたものだと解される。このように、建築物を建築し、又は購入しようとする者に対して建築基準関係規定に適合し、安全性等が確保された建築物を提供すること等のために、建築士には建築物の設計及び工事監理等の専門家としての特別の地位が与えられていることにかんがみると、建築士は、その業務を行うに当たり、建築物を建築する者に対する関係において、設計及び工事監理に関する建築士法及び建築基準法の規定による規制の潜脱を容易にする行為等、その規制の実効性を失わせるような行為をしてはならない法的義務があるものというべきであり、建築士が故意又は過失によりこれに違反する行為をした場合には、その行為により損害を被った建築物の建築主に対し、不法行為に基づく賠償責任を負うものと解するのが相当である(最高裁平成一二年(受)第一七一一号平成一五年一一月一四日第二小法廷判決・民集五七巻一〇号一五六一頁参照)。
 なお、上記最高裁判決自体は、建築物の購入者との関係について判示したものであるが、一般論として「建築物を建築し…ようとする者」との関係でも論じており、同判決が建築士の責任を肯定する論拠とするところは建築主との関係でも当てはまるものと解される。
 この点につき、被告Y3は、法的な場面を異にすると主張するが、同判決は、名義貸しという利益状況を捉えて、建築士の責任を肯定したのではなく、一般に、建築士には専門家としての重い責任があることを理由として、建築士の責任を肯定したものと解されるのであり、この点に関する被告Y3の主張は採用できない。
   ウ そこで本件についてみると、被告Y3は、前記のとおり、Aとの間で工事監理契約を締結しておらず、現に工事監理をする予定もなかったというのであるから、そもそも本件建物の建築確認申請書に工事監理者として自己の名を記載すべきではなかったのであり、いったん工事監理者として自己の名を記載した以上は、Aとの間で工事監理契約を締結して工事監理業務を行うべき義務を有していたというべきである。そして、これが不可能な場合、Aをして工事監理者の変更の届出をさせる等の適切な措置を執るべき法的義務があったものというべきである。にもかかわらず、被告Y3は、このような措置を執ることなく、これを放置したのであるから、上記法的義務に違反したものとして、専門家としての不法行為責任を負うことを免れない。そして、後記のとおり、過失相殺を検討するとしても、上記法的義務が尽くされ、適正に工事監理が行われていれば、本件の損害は生じなかったと認められるのであるから、被告Y3による上記不法行為とA及び原告に生じた全損害との間に相当因果関係が存在するものというべきである。
 なお、本件では、被告Y3が工事監理契約の成立を否認し、そして、その主張に沿う、Aが被告Y3と建築確認申請等に限定した内容の合意をしたという事情が認められることは前記のとおりであるが、この点は、後に、過失相殺を基礎付ける事情として考慮する。
 六 損害
  (1) 本件建物補修工事費用 三七八六万四二五一円
 《証拠省略》によれば、本件建物の補修工事として、甲一七提示の工事をする必要性があると認められ、補修工事費用として、三七八六万四二五一円を損害と認める。
  (2) 調査費用 一〇七万一〇二一円
   ア 原告は、甲一七の作成等に関する費用として、Dに七八万七五二一円を支払ったことが認められるところ、本件のような建築瑕疵(不同沈下)の訴訟を提起するに当たっては、その前提として、専門家である一級建築士の調査検討が不可欠であると解されるから、同額につき、本件建物の瑕疵と相当因果関係のある損害と認める。
   イ また、原告は、甲三〇、三一の作成に関する費用として、Dに二一万一二六〇円を支払ったとして、これを損害として請求するが、甲三〇、三一の各意見書は、本件訴訟提起後作成されたもので、その作成経緯、その内容等を考慮すると、本件建物の瑕疵と相当因果関係があるとまでは認め難く、これは損害として認められない。
   ウ 原告は、地盤調査費用として、二八万三五〇〇円を支払ったことが認められるところ、本件のような建築瑕疵(不同沈下)の訴訟を提起するに当たっては、その前提として、地盤の調査は不可欠であるといえ、同額につき、本件建物の瑕疵と相当因果関係のある損害と認める。
  (3) 代替住居確保のための費用 一三三万六一五〇円
 原告は、上記補修工事の間、引っ越しが必要であるとして、
   ア 引越費用(二回) 八四万六一五〇円
   イ 家賃(六か月分) 四二万円(七万円×六か月=四二万円)
   ウ 不動産仲介料 七万円(家賃一か月分)
 の上記各費用を請求しているところ、《証拠省略》によれば、上記補修工事の間、引っ越しが必要であると認められ、原告の請求額につき、本件建物の瑕疵と相当因果関係のある損害と認める。
  (4) 慰謝料 〇円
 本件に表れた諸般の事情に照らせば、本件において、原告に、上記認定の財産的損害の回復では、なお回復し得ない精神的損害が生じたとは未だ認め難いことから、慰謝料請求は認められない。
  (5) 小計 四〇二七万一四二二円
  (6) 各被告の負担額(過失相殺、弁護士費用の点を含む。)
   ア 被告Y1建設
 (ア) 被告Y1建設らは、予備的に過失相殺を主張するが、その主張内容を見ても、原告ないし原告側にいかなる過失があるのか明確でなく、採用できない(なお、損益相殺を主張するものと善解するとしても、損益相殺ないし損益相殺的な調整を行うことも相当でないと解される。)。
 (イ) 前記認容額等からすれば、弁護士費用としては、四〇〇万円が相当である。
 (ウ) 以上によれば、原告の損害につき、被告Y1建設が負担すべき額は、四四二七万一四二二円となる。
   イ 被告Y2
 上記のとおり、被告Y1建設の負担すべき損害の額は、四四二七万一四二二円となるところ、被告Y2は、その任務懈怠により、同損害を生じさせたということになるから、取締役の第三者に対する責任(旧商法二六六条の三第一項)に基づき、同額を負担すべきである。
   ウ 被告Y3
 (ア) 前記のとおり、被告Y3は、不法行為責任を負うことになるが、工事監理に関し、建築士法及び建築基準法を潜脱する事態を招いた一因には、Aが、前記認定のとおり、被告Y3との間で、工事監理契約を締結せず、建築確認の申請手続についてのみ一級建築士としての被告Y3の名称及び肩書を安易に利用しようとしたことがあるというべきである。そうであれば、原告と被告Y3との間においては、過失相殺をするのが相当であり(なお、過失相殺を基礎付ける事情については、被告Y3から主張されていると解される。)、その過失割合としては、前記認定事実からすると、五割が相当である。
 上記過失相殺を行うと、二〇一三万五七一一円となる。
 四〇二七万一四二二円×〇・五=二〇一三万五七一一円
 (イ) 前記認容額等からすれば、弁護士費用としては、二〇〇万円が相当である。
 (ウ) 以上によれば、原告の損害につき、被告Y3が負担すべき額は、二二一三万五七一一円となる。
 七 まとめ
 以上によれば、次のとおりとなる。
  (1) 被告Y1建設は、原告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、四四二七万一四二二円及びこれに対する不法行為後の日である平成一三年五月五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務を負う。
 なお、原告は被告Y1建設に対し予備的請求もしているが、被告Y1建設が、瑕疵担保責任による損害賠償義務を負うとしても、上記不法行為による損害賠償義務を上回ることはない。
  (2) 被告Y2は、原告に対し、取締役の第三者に対する責任(旧商法二六六条の三第一項)に基づき、四四二七万一四二二円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成一七年九月二四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務を負う。
 なお、取締役の第三者に対する責任に基づく損害賠償請求権は、履行の請求を受けた時に遅滞に陥るものと解される(最高裁昭和五九年(オ)第一五号平成元年九月二一日第一小法廷判決・裁判集民事一五七号六三五頁参照)。
  (3) 被告Y3は、原告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、二二一三万五七一一円及びこれに対する不法行為後の日である平成一三年五月五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務を負う。
 なお、原告は被告Y3に対し予備的請求もしているが、原告の被告Y3に対する債務不履行責任に基づく請求は、前記のとおり、その前提となる工事監理契約の成立が認められず、理由がない。
 八 結論
 よって、原告の被告Y1建設に対する請求は、主文第一項掲記の限度で理由があり、原告の被告Y2に対する請求は、主文第二項掲記の限度で理由があり、原告の被告Y3に対する請求は、主文第三項掲記の限度で理由があるから、これらを認容し、その余は理由がないからいずれも棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法六五条一項ただし書、六四条本文、六一条を、仮執行の宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 野尻純夫 裁判官 一木文智 烏田真人)

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