避難安全検証法の主観的瑕疵

避難安全検証法の主観的瑕疵

避難安全検証法とは、地下5階、地上50階を超えるビルの場合でも、避難安全検証法で言うところの、ルートC(全館避難安全検証法)の計算式の結果が、健常者である最終避難者が避難するのに要する時間が、3時間以上掛かかり、且つ、避難通路の扉に健常者の大人が、自身の体重をかけてでないと開けることが出来ないような扉(防火区画の自動扉の場合)があっても、建築基準法上安全であると判定する法律のことです。ましてや、上層階にホテル等がある建物では、消防署から丸適マーク迄が頂ける根拠となる法律なのです。

こんな馬鹿な法律がありますか!元々、避難安全検証法は病院、診療所、児童福祉施設というような、自力で避難することが困難な施設には、避難安全検証法は適用できない法律であるとは言え、このような複合建築物には、店舗、会議場、展示場、フードコートやホテル等の他に、集合住宅(マンションの法律用語)等も含まれることも在り得るのです。そうした場合を考えてみてください。一住居となれば、お年寄りや自力避難の困難な障害者等々も、居住されことが容易に想定されます。

このブログの読者の皆さんは、ご存じないかもしれませんが、高い建物から避難する場合、その避難に使うことが許されるのは、階段(直通階段、若しくは特別避難階段)だけです。エレベーターやエスカレーター(非常用エレベーターを除いて)は非常時には全ての電源が落とされ使用できません。一部虎ノ門ヒルズが、2014年12月02日付けの、森ビル株式会社のニュースリリースで、非常用エレベーター(基本的には消防隊の消防活動用のもの)を活用した、避難計画の運用を開始(超高層複合タワーで初めて、東京消防庁より認定を取得)したとの報道がありましたが、それ以外は、私は本日いま現在まで、聞いたことがありません。

お年寄りや、障害者が階段を使って、30数階から降りてくる様を、想像してみてください。ましてや、健常者の大人が、自身の体重をかけてでないと開けることが出来ないような扉(防火区画の自動扉の場合)や、避難するのに3時間以上も掛かるような状況の中で、お年寄りや、障害者を背負うなり、抱きかかえて避難させるのは、余程の訓練と、介助するためのグループが、チームワークを良くして行動しない限りは、この避難は不可能です。健常者であっても、避難に3時間以上も掛かれば、普通の精神状態ではいられません。パニックを引き起こします。このような建物を設計すること自体に私は、耐えられません。

では何故、このようなことになってしまうのかを考えてみます。建築基準法では,階数や建物規模に応じて避難施設を要求する規定は、15階までとなっています。(建築基準法施行令第122条第3項)例えば、15階建て事務所ビルと同じ基準階プランで50階建て,100階建ての超高層建築物を計画することは可能であり,そのことに対して直通階段を増やすなどの更なる追加的な法的制約は設けられておりません。

そして、このような課題に対して,任意ですが、2000年から避難安全検証法という諸外国には無い、性能規定を施行することとなり、この避難安全検証法により多くの高層建築物が誕生したのです。

ですが、避難安全検証法を端的に説明すると、避難経路における煙降下時間と、避難者が住居や執務室から避難するのに要する時間との差を、数値化して安全か安全でないかを、判断しているだけです。当然に、避難者は階段を目がけて集中します。その集中を制御するため、住居や執務室との間に、人が溜まることが出来るような、バッファー空間を設けたり、階段室や住居・執務室の扉幅を広げたり締めたりして、避難時間を遅らせたり、早めさせたりして、在館者全員が避難できる時間を割り出し、これが煙の降下時間より早くなる様に計画する考え方なのです。

では何故このような、考え方に至ったのでしょうか。答えは、高層ビルや超高層マンション・超高層複合ビルが、どんどん作られていく中で、火災の発生による事故があったり、どう考えても、いま現在の法の中では、解決の出来ない事象が多数発生したからです。ですが、片や発注者側では、貸室面積(レンタブル比)や分譲可能面積(事業計画における資金)の減少は、即ち利益の減少となるため、不動産団体等からの圧力もあったため(この部分は、私の憶測です)、上記のような制度を、編み出したということではないかと推測します。

その証拠に、この避難安全検証法の適用によって、排煙設備や避難階段等の防火避難規定が、適用除外できるため, その結果として,建設コストと避難安全性能のトレードオフが可能となり,従来の仕様設計方法よりも却って、安全性が劣る建築計画を誘発しているケースが多く見られるようになりました。

このように、避難安全検証法による性能規定化は,一意的な仕様規定から自由で合理的な性能設計への新たな道を開いたものであるが,一方で建築設計者の矜持に期待するだけでは解決できない新たな難問を生じさせることとなったのです。

尚、上記のような高層マンションや超高層複合施設ビル等は、その殆どが、第一種ないしは第二種再開発事業であり、その申請等で厳しい面がある反面、容積率の緩和や、床面積の除外規定、補助金・助成金制度の活用などが可能となり、立上げ当初に必要となる資金さえ確保できれば、後は、再開発事業を数多く手掛けている設計事務所に依頼できてさえしてしまえば、再開発事業者は、色々な意味でのメリットを享受することが出来、且つ、利益も大きいという、幸運に恵まれることになるのです。

しかし、私のような武骨者にとっては、冒頭に記したような欠陥のある建築物を、設計する設計者に対して、木を見て森を見ない大馬鹿者だと、声を大にして叫びたくなるのです。

本来、設計者とは正しくこのような制度の間違えに対して、建築の専門家として立ち向かうことが出来る者こそが、本来社会から求められる、設計者なのではないでしょうか。

正しく、これ間違った制度こそが主観的瑕疵でなくて、何なのでしょうか。

追記:この避難安全検証法の避難時間等に関しては、私の調べた限りでは、不動産の重要事項説明の要件には、入っていないように見受けられます。このような事も含め、この制度の在り方には、問題があると考えます。

以上

文責 釈迦牟尼仏(ニクルベ) 建太

次回に続く住宅瑕疵担保履行法の概説

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